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2014年 冬号 須坂市 楠わいなりー / 春号 木島平村 オーベルジュ・グルービー / 夏号 栄村 山ぶどうバッグ / 秋号南相木村信州田舎暮らし

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この記事は2026年夏号です

ワッサー

福島大島地区再生を目指す会
お問い合わせ●須坂市役所産業振興部農林課
TEL 026-248-9004
ワッサーは、7月下旬〜8月下旬頃まで須坂市内
スーパーや各所にて販売しています。


飯縄山を望む河川敷の桃畑(須坂市)

 長野県須坂市、千曲川沿いに広がる福島地区。春になると桃の花が一面に咲き誇り、かつては「一目千本」と称されるほどの絶景が広がったこの地は、2019年の台風19号で大きな被害を受けた。畑は水に沈み、多くの木が被害を受け、農業を続けるかどうかの選択を迫られた人も少なくない。
 そんな中で立ち上がったのが、「福島大島地区再生を目指す会」。彼らが再生の象徴として選んだのは、須坂市生まれの果実「ワッサー」だった。
 甘さと酸味をあわせ持つこの果実の旬は、7月下旬から8月下旬頃。地域の未来をつなぐ、新たな一歩となっている。


 「ワッサーは、桃とネクタリンの"いいとこ取り"なんです」

 

 そう話すのは、「福島大島地区再生を目指す会」代表の中嶋孝紀さん。ワッサーは白桃とネクタリン(表面に毛がない桃の一種)の偶発的な交配から生まれた果実で、須坂市の故・中村渡さんの畑で見つかった。現在は、ご家族を中心に須坂市など多くの生産者によって受け継がれている。名前の由来は、中村さんの幼少期のあだ名「ワッサン」。地域の中で自然に生まれ、育まれてきた果物だ。

 

 見た目は桃に似ているが、果肉は黄色く、やや硬め。カリッとした歯ごたえがありながらもジューシーで、味は濃い。「甘さと酸味のバランスがいいんです」と中嶋さん。糖度の高さだけでなく、ほどよい酸味があることで、飽きのこない味わいが生まれる。

 

 もうひとつの大きな特徴が"日持ちの良さ"だ。一般的な桃やネクタリンは収穫のタイミングが非常にシビアで、少し遅れるだけで一気に熟してしまう。一方でワッサーは果肉がしっかりしているため、収穫の適期に幅があり、およそ一週間ほどの余裕がある。「無理にその日にやらなくても、後に回せる。それが大きいんです」。この特性は、限られた時間で農作業に関わる生産者にとって大きな利点になる。こうした特徴に着目し、再生の会はワッサーを地域再生の柱として選んだ。

 

 その背景には、2019年の台風19号による大きな被害がある。千曲川の河川敷は、肥沃な土壌に恵まれ、古くから桃の栽培に適しているとされてきた。一方で、何年かに一度は増水の影響を受ける場所でもある。しかしこの台風では、その豊かな畑が一変した。千曲川の水位は堤防ぎりぎりまで上昇し、河川敷の畑は水没。土砂が堆積し、流れてきた木やごみで果樹が折れ、根こそぎ倒れる被害も相次いだ。「栽培を続けられない状況もありました」と中嶋さんは振り返る。

 

 「一番つらかったのは、高齢の農家さんたちが辞めるきっかけになってしまったことです」と話すのは、販売戦略チームリーダーの羽鳥周一郎さん。長年守られてきた桃畑が失われていく危機感が、この会の立ち上げにつながった。

 

 現在、会には20代から60代まで12人が参加し、新規就農者も加わる。モデル園を拠点に、新しい農業の形を模索している。

 

 「消毒や剪定など専門的な作業は専業農家が担い、収穫などは誰でも関われる形を目指しています」と羽鳥さん。

「農機具がなくても、高齢者でも、女性だけでも、副業・兼業でも栽培できる果樹園」。そんなテーマのもと、関わり方の幅を広げようとしている。

 

 販売面でも手応えは見え始めている。地元スーパーでの試験販売では、予想を大きく上回る売れ行きを記録した。試食会でも「初めて食べたけれど好きな味」という声が多く寄せられている。ただし、長野県外ではまだ知名度が高いとは言えない。「まずは知ってもらうことが必要です」と羽鳥さん。現在は試食販売やイベント出店、加工品の開発などを通じて、認知の拡大に取り組んでいる。

 

 「ワッサーが"あれ美味しいよね"と全国で知られる存在になれば、自然と作り手も増えていくはずです」

 目指すのは、「とちおとめ」や「温州みかん」のように、誰もが知る果物になること。ワッサーをきっかけに新たな担い手が増え、地域の農地が守られていく。そんな循環が、この地に根づいていく未来だ。

 

 かつて桃の花で埋め尽くされた風景は、いま再びこの地に広がり始めている。今年の夏も、須坂の畑でワッサーが実る。甘酸っぱい果実が結ぶ、地域の物語はまだ続く。


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